[科学用語の高級とは?]
一般用語では、「上等」や「上質」といった品質の高いものを指して「高級」という用語が用いられますが、科学用語、特に有機化学の分野ではちょっと違った意味合いで用いられます。
有機化合物とは、炭素(C)を含んだ物質の総称ですが、この炭素は数珠のように炭素同士でつながり(=結合して)、大きな分子になることができます。
そして、一般的に炭素数の少ない化合物は、外観が水状で、水に溶けやすい性質を持ちます。対して、炭素数の多い化合物は、外観がロウ状等の固形で、水に溶けにくい性質を持っています。
つまり、炭素数が多いか、少ないかで、類似した特性を持つ化合物に分類し、炭素数が多い化合物を指す用語として「高級」が用いられるわけです。
そして、一般用語でも「高級」の反対語は「低級」ですので、有機化学の分野でも炭素数が少ない化合物を指す用語として「低級」か用いられます。
[炭素数12以上が高級脂肪酸]
炭素数の多いものが「高級」で、少ないものが「低級」を指しますが、どんな化合物も、炭素数の多い・少ないで高級や低級と呼ぶわけではありません。「高級」、「低級」と呼ぶ化合物は、主に脂肪酸とアルコール類です。
脂肪酸とは、天然の油脂やロウの主要成分のひとつであり、炭素同士が結合した末端にカルボキシル基(-COOH)を持つものの総称です。この脂肪酸の中で化粧品類には主に炭素数が12以上のものが油剤として用いられ、これらを「高級」脂肪酸と呼び、炭素数10以下のものは「低級」脂肪酸と呼びます。
*表1
・低級脂肪酸
炭素数1→ギ酸
2→酢酸
4→酪酸
5→吉草酸
6→カプロン酸
7→エナント酸
8→カプリル酸
9→ペラルゴン酸
10→カプリン酸
・高級脂肪酸
炭素数11→ウンデシレン酸(不飽和)
12→ラウリン酸
14→ミリスチン酸
16→パルミチン酸、
パルミトレイン酸(不飽和)
18→ステアリン酸、
イソステアリン酸、
オレイン酸(不飽和)、
リノール酸(不飽和)
炭素数の違いによる主な脂肪酸を上記の表1に示しましたが、化粧品類には主に高級脂肪酸が石けんの原料として用いられます。
また炭素数が少なくなると油の性質が失われ、酢酸(食塩に4%程度含まれるすっぱい成分の元)のような性質を持つようになり、そのままでは皮膚刺激や原料臭などを持つためです。
しかし、低級脂肪酸とアルコールを結合させ、このような性質を改善したエステル油などは、液状の油成分として化粧品類に多用されています。
[炭素数6以上が高級アルコール]
アルコールというと飲用のお酒を思い浮かべる方も多いかと思いますが、科学では、アルコール類とは炭素同士が結合した末端に水酸基(-OH)を持つものの総称です。そして、飲用のエタノール(エチルアルコール)は、アルコール類の炭素数が2個の低級アルコールということになります。
アルコール類も脂肪酸と同様に、炭素数が増えるにつれて水のような性質から油のような性質を持つようになります。
※主なアルコール類
[低級アルコール]
炭素数
1→メチルアルコール(メタノール)
2→メチルアルコール(エタノール)、エチレングリコール
3→プロパノール、イソプロピルアルコール、グリセリン
4→ブタノール
5→ペンタノール
[高級アルコール]
6→ヘキサノール
12→ラウリルアルコール
14→ミリスチルアルコール
16→セチルアルコール(セタノール)
18→ステアリルアルコール、オレイルアルコール(不飽和)
炭素数の違いによる主なアルコール類を示しましたが、炭素数6以上のアルコール類を「高級」アルコールと呼び、炭素数が5以下のアルコール類は「低級」アルコールと呼びます。
アルコール類は、脂肪酸とは異なり低級アルコールも化粧品に汎用されます。低級アルコールであるエチルアルコール(エタノール)は、油分や樹脂など水に溶けない成分を溶解するという優れた性質を生かして香水やスプレーなどの化粧品類に用いられますし、グリセリンは水に可溶の保湿剤として様々な製品に使用されます。
また、天然の動植物の脂質(水に溶けない成分の総称)に由来する炭素数の多いセチルアルコール(セタノール)やステアリルアルコールなどの高級アルコールは、ヘアトリートメントやクリーム・乳液などに油成分として、または製品の硬さを調整し伸びや感触を良くする目的に使用されます。あるいは分子中にある水酸基が水に馴染みやすい性質であることから乳化を補う働きがあるため、製品の乳化状態を安定化させる目的にも使用されます。