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カチオン化

[毛髪は濡れるとマイナスに帯電する]

プラスチックの下敷きをこすって髪にかざし、髪を逆立たせた経験をお持ちの方も多いと思いますが、これは静電気の働きによるものです。摩擦エネルギーによって髪はプラスに、下敷きはマイナスに帯電し、これらが電気的に引き合うため髪が逆立つのです。このようにプラスイオンとマイナスイオンは、磁石のN極とS極が引き合うようにお互いに引き合う性質を持ちます。そして、プラスイオンは、陽イオンやカチオンとも呼ばれます。
プラスイオン=陽イオン=カチオン

毛髪はタンパク質からできていて、タンパク質は多数のアミノ酸が集まってできています。

*毛髪を構成するアミノ酸組成 含有量内訳

・酸性アミノ酸(水に溶かすと酸性)…
グルタミン酸  13.8%
アスパラギン酸  4.9%  合計18.7%

・塩基性アミノ酸(水に溶かすとアルカリ性)…
アルギニン  9.1%
リシン  2.5%
ヒスチジン  0.9%  合計12.5%

・中性アミノ酸(水に溶かすと中性)…
シスチン  17.2%
トレオニン  7.6%
セリン  6.9%
プロリン  6.7%
ロイシン  6.5%
バリン  5.6%
イソロイシン  4.8%
グリシン  4.1%
アラニン  2.8%
フェニルアラニン  2.5%
チロシン  2.4%
メチオニン  0.9%
トリプトファン  0.8%  合計68.8%

酸性アミノ酸の比率が塩基性アミノ酸よりも若干多いため、毛髪は弱酸性でプラスとマイナスがつり合った状態(プラスとマイナスが同じ数)になります(これを毛髪の等電点といい、pH=4.5~5.5といわれています)。
また、水のpHは中性(pH=7)ですから、毛髪を水で濡らすと等電点のpH(4.5~5.5)よりもアルカリ性側に近づくことになります(アルカリ性は水酸化物イオンOH-=マイナスイオンの多い状態)。このように水で毛髪を濡らすと、イオンのバランスが崩れて毛髪はマイナスが多い状態となります。つまり、毛髪は濡れるとマイナスに帯電するので、カチオンとイオン的に結合し易くなるということです。

さらに、毛髪は損傷すると塩基性アミノ酸であるリシンやヒスチジンが減少したり、中性アミノ酸のシスチンが酸性アミノ酸のシステイン酸に変化したりと等電点が健康毛よりも酸性側に傾くため、より強くマイナスに帯電しますので、カチオンはより結合し易くなります。

[元の成分の特徴にプラスイオンの性質が加わるのがカチオン化]

カチオン化とは、物質にカチオンの性質を持たせる化学反応をいい、カチオン化された物質はマイナスイオンとイオン結合する性質を持ちます。そして、化粧品や医薬部外品で用いられるカチオン成分の代表的なものがカチオン(化)ポリマーです。

ポリマーとは小さな分子が繰り返し結合して大きくなった化合物を指します(ポリマーのポリは「たくさん」という意味)が、カチオン(化)ポリマーは天然(由来)のものと合成のものに大別されます。

天然のカチオン(化)ポリマーの代表はカニ殻を原料としたキトサンで、分子内にアミノ基(-NH2)を持ち、このアミノ基が各種の酸と塩を形成し、水に溶かすとカチオンの性質を示します。近頃よく使われるアミノ変性シリコーン(化粧品の表示名称はアモジメジコン、アミノプロピルジメジコンなど)も分子内にアミノ基を持っていますので、カチオンの性質を示すのです。

また、合成のカチオン(化)ポリマーには様々なものがありすが、その代表がセルロース(ブドウ糖のポリマー)から造られるカチオン(化)セルロースて、シャンプーをはじめ様々な化粧品、医薬部外品に多用されています。

セルロースは、本来は、水に不溶の繊維であり、この水に溶けない性質のために化粧品類に広く応用はしにくいものでした。そこで水溶性としたセルロースが工業的に作られ、主に保湿、増粘、造膜性などセルロースが持つ特性を生かして使用されています。ただし、この水溶性セルロースは、水に溶けてもイオンにならないため、水で簡単に洗い流されてしまいます。

これに対し、水溶性セルロースにカチオンの性質を付与したカチオン(化)セルロースは、水に溶かすとセルロースの持つ特徴と、プラスのイオンの性質を併せ持つこととなり、濡れた毛髪のマイナスイオンとイオン結合します。すると、カチオン(化)セルロースは水でも洗い流されなくなり、セルロースの特性を持続的に与えることができるようになります。

このように、化粧品や医薬部外品に用いられる成分(特に、コンディショニング成分や補修・保護などの目的で使用される成分)をカチオン化すると、元の成分の特徴を生かしつつ、プラスのイオンの性質が加えられるため、吸着性や残存性が高まり使用感や仕上がり感などを向上させることができるようになります。

[カチオン化は様々な成分に応用されている]

※カチオン(化)ポリマーの化粧品と医薬部外品の表示名称の比較例
①化粧品表示名称 ②医薬部外品表示名称

①ポリクオタニウム–7 ②塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体
①ポリクオタニウム–10 ②塩化0-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル] ヒドロキシエチルセルロース
①ポリクオタニウム–24 ②塩化0–[2-ヒドロキシ-3-(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル] ヒドロキシエチルセルロース
①ポリクオタニウム–39 ②アクリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルアリルアンモニウム共重合体液

※カチオン界面活性剤の化粧品と医薬部外品の表示名称の比較例

①ステアルトリモニウムクロリド ②塩化ステアルトリメチルアンモニウム
①セトリモニウムプロミド ②臭化セチルトリメチルアンモニウム
①ジココジモニウムクロリド ②塩化ジココイルジメチルアンモニウム

※カチオン化された成分例

①カチオン化成分の総称 ②化粧品表示名称 ③医薬部外品表示名称

①カチオン化加水分解ケラチン ②ヒドロキシプロピルトリモニウム ③塩化N-[2-ヒドロキシ-3(トリメチルアンモニオ)プロピル]加水分解ケラチン液
①カチオン化加水分解シルク ②ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解シルク ③塩化N-[2-ヒドロキシ-3-(ヤシ油アルキルジメチルアンモニオ)プロピル]加水分解シルク
①カチオン化グアーガム ②グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド ③塩化0-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアーガム
①カチオン化シリコーン ②アモジメチコン ③アミノエチルアミノプロピルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体

化粧品と医薬部外品のカチオン(化)ポリマーの表示名称の比較例を示しましたが、医薬部外品の表示名称は化粧品の名称よりも複雑になっています。これは、医薬部外品の場合は成分の構造を表す科学的な名称がそのまま用いられているためです。

化粧品では「ポリクオタニウム」という名称が共通していますが、ポリは「たくさん」の意味で、クオタニウムは英語のquaternizationに由来する名称で、日本語では「第4級化」と訳します。

コンディショナーやトリートメントにはカチオン界面活性剤が用いられれことをご存じの方は多いと思いますが、このカチオン界面活性剤の構造が第4級化と深く関わっています。

カチオン界面活性剤の表示名称の化粧では、「○○(アン)モニウム」が、医薬部外品では、「△△メチルアンモニウム」の名称のものが多くあります。これはカチオン界面活性剤の構造中にアンモニアと類似した形があることを表し、このような構造のカチオン界面活性剤を総称して「第4級アンモニウム塩」といいます。

つまり、化粧品の表示名称のクオタニウムは、カチオン界面活性剤の構造を持っていることを表しています。
カチオン化すると。元の成分の特徴とプラスイオンの性質を併せ持つと説明しましたが、この第4級化によってカチオン化された成分は、単にプラスイオンに帯電するだけでなく、カチオン界面活性剤の持つ性質(柔軟性や滑らかさの付与など)も併せ持つようになります。

カチオン化された成分例で、カチオン化は様々な成分の機能性の向上や、特徴的な効能を得るなどを目的に広く応用されている技術です。

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