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ジアミン染料

ジアミン染料とは

ジアミン染料は、現在、最も汎用しているヘアカラー剤である酸化ヘアカラー剤(ヘアダイ)の主成分です。ジ・アミンというように2個のアミノ基(-NH2、-NHR、-NR2)をもつ芳香族アミンで、パラフェニレンジアミン(PPD)やパラトルエンジアミンなどのことです。
亀の甲(ベンゼン環)の6本の内、2本の手にそれぞれアミノ基がつながった構造をしています。

ジアミン染料の歴史

19世紀のヨーロッパで、有機化学という学問ができ、有機合成よる色素の供給が始まりました。それまで色素といえば、必ず天然資源であり、高価なものだったようです。
世界初の合成染料の発見は、1856年に英国のW.パーキンによって合成されたモーブ(紫色の色素)です。現在もヘアダイで広く使用されているPPDは1863年にドイツのA.Wホフマンによって発見されました。
1818年にフランスのL.J.テナールによって発見された過酸化水素と、このPPD(パラフェニレンジアミン)との組み合わせによるヘアダイの特許をフランスのP.モネーが特許したのが1883年のことです。これが現在のヘアダイの基本技術となっています。

1907年、フランスのE.シュエレールがAureolと名付けたヘアダイを自宅の台所で製造し、パリのヘアサロンに売り歩いたのがロレアルの歴史の始まりであったそうです。現在、世界最大の化粧品メーカーであるロレアル社もヘアダイの発売が起源なのです。

日本で最初のPPDによるヘアダイが発売されたのは、1905年(明治38年)のことです。当時はPPDのアルカリ水溶液を頭皮に塗り、空気酸化によって2時間ほどかけて染めていたようです。その後、1912年(大正元年)にPPDと過酸化水素を用いたヘアダイが発売され、カラーリング時間が短縮されました。1918年(大正7年)には、PPD粉末、のり粉および過酸化水素水の3剤タイプの30分で染め上げるヘアダイが発売されました。

ジアミン染料の特徴

PPD(パラフェニレンジアミン)を代表とするパラ系のジアミン染料は、ヘアダイの核となる染料で「染料中間体」や「染料前駆体」と呼ばれています。過酸化水素や空気(酸素)などで酸化されたパラ系のジアミン染料が重合し、発色します。このとき毛髪を構成するケラチンタンパク質と結合し、不溶性の色素となるので、洗髪によって色が落ちにくくなるといわれています。

しかし、染料中間体だけではなく、くすんだ褐色系のシェードしか出ません。そこで、レゾルシノールなどのカプラーの登場です。カプラーそのものは酸化されても発色しませんが、過酸化水素や空気(酸素)などで酸化されたパラ系のジアミン染料がカプラーと重合し、様々なシェードを生み出すのです。このような染料中間体のような主薬と化合し色素となる物質をカプラーと言い、反応をカップリング反応と呼びます。
いずれにしてもパラ系のジアミン染料が発色反応の引き金となっており、これがないとヘアカラーリングすることができないのです。

パラ系のジアミン染料であるPPDとカプラーであるメタアミノフェノール(MAP)の酸化還元特性の関係で、酸化されたPPD酸化体は還元され元のPPD還元体戻れるのに対して、酸化されたMAPは安定化していて、もとのMAPには戻れません。還元体が重合(発色)反応の開始剤になっており、還元体が認められないカプラーは「染料中間体」になれません。

一方、染料中間体とカプラーの組み合わせだけでは鮮やかさが足りなかったり、微妙なシェード調整が難しかったりする場合があります。そこで必要になってくるのが二トロ染料などの直接染料です。二トロ染料は、もともと鮮やかな色がついていて、染料中間体やカプラーとは反応しないで、希望するシェードを出すように調整することができます。しかし、ジアミン染料を用いた場合よりも堅牢性が悪いので、ヘアカラーリング直後は良いのですが、徐々にシェードが変わってしまう危険性があります。

ジアミンと社会

ジアミン染料はヘアダイ以外に毛皮・皮革製品の染料、工業用ポリマー、アラミド繊維、自動車用タイヤゴムの老化防止剤、織物染料、顔料の製造に使用されています。ジアミンのジフェニル骨格やジフェニルエーテル骨格のものは、高機能性ポリマーの原料として用いられ、携帯電話やスマートフォンの素材になっています。

現在のカラー写真の主流は発色現像法という方法で、外部カプラーを使うタイプと内部カプラーを使うタイプがあります。現像薬としては、PPD系化合物を使用します。乳剤内部・外部に存在するメチレン基やフェノール類は、主薬の酸化物と化合し色素となります。1912年、フィッシャーが発見した反応は色を出すということでは、ヘアダイと近い応用です。近年、この様なAg+を用いたヘアカラー剤が販売されるようになりました。

現在、最もジアミン染料を利用しているのがポリアミノ繊維の生産です。ポリアミノとは、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマーです。一般に脂肪族骨格を含むポリアミノをナイロンと総称しますが、これは初めて合成されたポリアミノであるナイロン-66のデュポン社の商標に由来するものです。また、芳香族骨格のみで構成されるポリアミノはアラミドと総称されます。PPDを原料とするアラミド繊維は、芳香族ポリアミノ系樹脂の登録商標です。
1965年に開発されたポリパラフェニレンテレフタアミドは、デュポン社によって1970年代初期に商業的に使用され始めた芳香族ポリアミド系樹脂の登録商標であるケブラー(Kevlar)です。全てのアラミド繊維の中でも最高の引っ張り強度を持つと考えられており、繊維強化プラスチックの補強、船体、飛行機、自転車、ヨットの帆、特殊な用途ではボディアーマー防刃ベストなどにも使用されています。2010年アラミド繊維生産能力から概算するとパラ系のアラミド繊維を生産するのにPPDが、日本国内で約1800トン、世界で約23000トンも使用されていることになります。

さらに、ジアミンを原料とするポリアミド酸から得られたポリイミドは、電子回路の絶縁層や半導体素子の表層の保護間膜として用いられているだけでなく、携帯電話・スマートフォンなどの液晶パネルの配向膜などにも用いられ、情報社会には欠かせない素材となっています。
また、極めて軽量かつ過酷な環境下でも強い性質から、2010年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた宇宙ヨットと呼ばれるIKAROSの太陽帆としても採用されています。

ジアミン染料の未来

ヘアダイの主成分である染料については、欧州のメジャー企業を中心に安全性の向上や堅牢性・彩度の改善を目指した新規染料の開発が精力的に行われています。そして、開発された染料は、先ず欧州で使用されてから、数年から十数年を経て、その一部のものが米国や日本で使用されるようになってきています。実際、欧州でヘアカラー剤に使用できる染料の種類は、ジアミン染料だけでも日本の倍以上もあります。

2011年秋にシュワルツコフ社(ヘンケル・グループ)から日本で初めて使用される新染料「ピラゾール」を用いたイゴラ ロイヤル ペンタが発売され話題になっています。この新染料「ピラゾール」とは、ヘテロサイクリック構造の1-ヒドロキシエチル-4,5-ジアミノピラゾール硫酸塩という1990年頃にウエラAG社のT.クラウゼン博士らによって開発された酸化染料です。

この染料が開発される以前、赤いシェードはパラアミノフェノールとメタフェニレンジアミンを用いることで得ていましたが、結果として得られる赤い染料は安定性が悪く、多くの場合は直接染料を使って補色していました。新規ピラゾール染料とカプラーの組み合わせによって、優れた堅牢性をもつ鮮やかな赤色を与えられるようになりました。
ウエラ社は、2000年時点で、「コレストン パーフェクト」の8つのシェードにこの新しい染料中間体(新規ピラゾール)を導入していましたし、欧州ではロレアル社、P&Gグループ(ウエラ社やクレイロール社)、ヘンケル社(シュワルツコフ社)など多くの会社から配合製品が発売されています。

一方、ジアミン染料やカプラーのような酸化染料の開発ちは異なる流れとして、メラニン前駆体、カテコールアミン類などが空気酸化型あるいは累積ヘアカラーリング剤ちして、開発が進められており、多くの特許が出願されています。その中で、1998年にヘンケル社(シュワルツコフ)から5,6-ジヒドロキシインドールの1電子還元体である5,6-ジヒドロキシインドリンを用いた「RE-NATURE」が欧州(ドイツ、オーストリアやスイス)で発売されました。
その後、2009年10月に花王から5,6-ジヒドロキシインドールを用いた「ステップカラー」が発売され、ジアミン染料以外の染料を主成分とするヘアカラーが具現化されるようになりました。

さらに、2000年10月にジアミン染料を発色させるために用いる過酸化水素の代替として、空気中の酸素を活性化させる酸化酵素(ウリカーゼ)が新規有効成分として承認されています。
1883年にフランスのP.モネーがジアミン染料と過酸化水素との組合わせによるヘアダイの特許を取得してから100年以上が、経過した現在、ようやく革新的なヘアカラー技術が現れる兆しを感じています。

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